ポチは相も変わらず、モナミに通いつつ、開店廻りを続けていた
その頃には、良い開店があれば、朝すらモナミに行ってなかったのだから、ジグマというのはただの自称で、実質開店屋であった
そして運命の機械の導入が始まる
『ミサイル776D』
数年ぶりに出た、一発台もどきの台
今でいえば天下一閃だ
セブン機や権利物では存在しえないような、期待値の台が出没し得る、開店稼業にとって、これしかないという垂涎の一台である
店側も、じわりじわりと新台に充てる割数を減らしつつはあったが、今のように打ってる若者総パチプロ、甘い店であればウン千人と並ぶような終末期ではない
導入する店、導入する店、そこかしこでお祭り騒ぎとなり、ポチも、武闘派のチームがいない店を捜しては参加していた
そうして、発売から、いの一番に導入しようという店の開店が一通り終わり、二段階目の、様子見をしていた店舗の導入がはじまる
そして、この段階にモナミも乗っかることとなった
貼りだされるミサイル導入のポスター
田山さんの日記などを見て胸を震わせていたポチは、開店屋のくせに、モナミに対して愛着のようなものが強くあった
自分はジグマで、モナミは自分の店、という恥知らずで傲慢な気持があった
これだけ色んな店のミサイル祭りに参加しておきながら、いざ自分の店で行われるとなると、当たり前のように訪れたそのときを、まったく予想することが出来ずに、いわば天災でもおきたかのように動揺した
そんなことは起りようもないのに、とんでもない台数が入り、武闘派、羽島さん、白谷さん、それに都内のあらゆる開店屋が大挙し、朝から晩まで打ち倒して、根こそぎ持って行って、その後の日々の平打ちにも影響を及ぼすほどの被害を被るのではないかと恐怖した
そして、白谷さんや、羽島さんと仲良く話す姿を、Tさんなどの身内のジグマや、モナミにいた気のいい爺さんなどの常連に見られることを恐れたのだ
恥知らずのポチは、白谷さんにこの世の終わりの様な顔をして相談する
その日も他店でのミサイル稼働を終え、連日の稼働でくたくたのはずなのに、白谷さんは、ポチの思いつめた雰囲気を察して、時間を空けてくれた
「どうしたポチ、なんかあったか」
心配している白谷さんを見て、言葉が詰まる
「…いや、あの」
「…あの、今度ミサイルがモナミに入ります」
「おお、そうか!んじゃ、橋向こうの店に行っていたときみたいに、またポチの家にお邪魔になりながら一緒に打つか!!」
「…あ、いや、ちがうんす」
「ん、どうしたポチ」
「…」
「…」
「…あの、…あの、ミサイルがモナミに入ることを黙っていて貰えないでしょうか…」
「…あ?」
不誠実に、言い訳がましく、それっぽい理屈にみえるよう、順序もむちゃくちゃに、わかりやすい嘘をつぎはぎしてして、そして、後ろめたい事柄については気付かぬうちに同じことを何度も繰り返し、それこそ訴えるように説明した
白谷さんは、ただただ黙って聞いていた
これだけお世話になっておきながら、ジグマの仲間に見られたくない、そして自分の店だけは荒らされたくない、という自分勝手で最低な真意が、焦れば焦るほど、ポチの言葉の端々からこぼれ落ちていたはずだ
それなのに白谷さんは、ずっと黙って聞いていた
ポチが喋り終わって、自分は上手く説明できたか、納得できるようなことを言えたのか、最低な自分を隠すことはできたのか、と自分の事ばかり考えて、恐る恐る白谷さんの顔を覗くと、
「わかった大丈夫だ、安心しろ」
と、いつもと寸分違わぬ笑顔がそこにはあった