~自立『4』~
崩落『2』
いままで続けていたバイトをすべてやめ、新居近くのパチンコ店で新たにバイトを始めた
そこでは、今まで自分のような人間には縁のなかった、髪を明るく染め上げた華やかな女性が数人働いていた
全能感に酔っていた自分は、いまや自分も自立した大人の男性、自分にも権利があるはずだと、必死に滑稽なアピールをはじめた
当然相手にされることはなく、ときに小馬鹿に、ときに気味悪がられながら、あしらわれ続けた
彼女たちは、必死に話しかける自分を無視して、やり手の若い社員さんといつも嬉しそうに話していた
仕事が終わり、やれ食事に行こう、飲みに行こうと談笑しながら出て行く後ろ姿を、いつも恨めしいような気持で見送っていた
親元にいた最後の頃、バイト先の先輩と、その親友のパチプロさんから、ボーダー理論を教えてもらっていた
そのパチプロさんの通うお店で回る台を教えてもらい、それを打たせて貰えたことによって、理論が正しいことをぼんやりと実感できた
収支の方は、そうしたときにプラスを重ね、地元に帰っては、一人前にパチプロ面しながらアイてもいない台を何台もカニ歩きし、ムラで回った台にしがみついては、増やしたり減らしたりしていた
トータルはおこぼれに預かっていたおかげで、わずかながらもプラス
そのため、セミプロのような気持でいた
「時間と種銭に余裕があれば」
そう考えていた
生活が落ち着き次第、バイトをやめてパチプロになろうと心に決めていたが、バイト先でうまく立ち回れなかったことや、女性に相手にされない苛立ちが重なり、いまだ生活の基軸が出来ていないにもかかわらず、バイトあがりのパチンコ屋通いが始まった
バイトは早番がほとんどだったため、パチプロさんのお店には行けなかった
行っても、「夕方からでは負けるからやめとけ」と諫められて打てないのだ
そこまで厳格にしなくても負けないんじゃないか、という反発する気持がずっとあった
だから、地元のお店はもっとキツいルールであったけれど、勝負した
ボーダー理論は頭に入っていたし、実感もできたが、同時にパチプロさんが口酸っぱく否定していた、
「ハマった台を打てばその分が余計に戻ってくるんじゃないか」
という感覚を、どうしても捨てきれなかった
パチプロさんの店では咎められるので実践できなかったが、ボーダー理論にプラスして、ハマっている台を追っていけば、よりプラスにできるのではないか、そう考えていた
パチプロさんに台を勧めて貰っていたとはいえ打っていたのは自分、それで収支をプラスにできていたのだから、店員としての経験を積んだいまは、一人であっても同じだけのプラスが見込めるはずだ
自分に足りないのは経験だけ、百歩譲ってそれが甘い計算で、自分一人ではプラスマイナスゼロであったところで、それを積み重なることによって、いづれプラスになっていくだろう
だから、打ち続ければいいだけ
自分は勝つ理屈を知っているし、それを実践しているパチプロの知り合いがいるし、パチンコ屋で働いている
負けるわけがない
その店のルール(2.38円 LN制)では、夕方から打つという時点で既にボーダー理論を持ち出しても無意味なのに、必死に釘を見、回転数を数え、メモし、計算を、とパチプロ風なポーズを取り続けた
当然、目を覆うようなマイナスを積み重ねてゆく
手許のお金は見る見るうちに目減りし、打てども打てども負ける日々に、「ボーダー理論で勝てねーじゃねーか!!」と理論通りに負けを重ねながら、怒りで台をドつきはじめる
「理屈が分っていて、パチプロの知り合いがいて、パチンコ屋で働いている、これで勝てなければ、いったいだれが勝てるんだ」
「負けるわけがないんだ」
徐々に、追い込まれてゆく精神
明らかな栄養不足とストレスによって、顔中がニキビや吹き出物であふれ、ぐじゅぐじゅと崩れてゆく
バイト先では、あからさまに女性から避けられるようになり、人の良い店員さんに同情されては、一人前以上であった自尊心が馬鹿にするなと憤慨した
仕事をしても、無駄にあったパチンコの知識から、玉がかりなどの呼び出しにたいして「これくらいが妥当」と自分勝手な補償を繰り返し、「バカのくせして勝手なことをするな!!」と店長に怒鳴られ続けた
なぜ、じぶんだけ、、、
仕事では正当に評価されず、女性は自分という人間を知ろうともしてくれない
逃げるように通いつめたパチンコでは、もう取り返しがつかないほどの負け額に達していた
すでに釘や回転数など、気にも留めなくなっていた
店に入り、よく打つ数台の中から一番ハマっていそうな台を選び出し、のけぞる様にして打ち始める
昨日も一昨日も当たっていない、自分だけでもこれだけ当たっていないのだから、見ていない間も含めれば相当な数字になっているはず
これだけハマっているんだから、一回出てしまえば、それまでの分すべてとは言わなくても、半分くらいはかえってくるに決まっている
等価ボーダー程度の台に千円、二千円と溶かしてゆき、三千円入れたころにはリーチが外れる度に、怒りで盤面を殴りつけていた
そうして、手許のお金はすべてなくなった
バイトの行き帰りに嫌でも視界に入る、自分の血肉のようなお金を奪っていったお店は、今この瞬間も営業を続けている
通る度にリベンジを果たし、自分が間違っていなかったことを証明したくて気が狂いそうになる
が、打つお金はもうない
女性に避けられ、男性に哀れまれ 店長に怒鳴られながらバイトを終えても、家でテレビを見ること以外の選択肢はない
この屈辱的な時間が過ぎてくれるのを、ただひたすら耐えるしかない
テレビを見ながら笑っていても、ふとした瞬間、テレビの中から聞えてくる声が自分をせせら笑っているような錯覚に陥る
負けたときの悔しさが甦り、テレビから意識が剥がされる
「あのとき、あそこでやめていれば」
「きっと、あの台はハマりの前に爆発していたんだ」
「あんな選び方ではなくて、もっと本気で、それこそ何日も様子を見て、しっかり台を選びさえすれば」
自分は甘かった
本気になれていなかっただけ
そう自分に言い聞かせ、部屋の隅で膝を抱えながら、次の給料が出たときこそはと、幾万通りのリベンジの形を想像していた
そんな日々を繰り返していたあるとき、仕事の一環として自分に任せられていた作業の一つが、店長の小遣い稼ぎのための不正であったことに気が付く
日々、怒鳴られ、馬鹿にされながら間抜けにせっせとこなしていた自分を思い返し、爆発するような怒りがこみ上げてくる
あれほど自分に敵意を向けながら、それによって自分が反発心を抱いていることも分かっていながら、それでも気付かないだろう、バカだから大丈夫だろうと、ニヤけている店長を想像し、悔しさと屈辱、激しい怒りで意識が焼き尽くされる
ありえない
気色の悪いアプローチを続けて女性に避けられていた事、
若い男性店員に哀れみの視線を送られていた事、
そうして、パチンコに負け続けていた事、
そんな日々の不快な出来事、耐え難い屈辱、そこからくるストレスを、すべて店長に対する正義の怒りであるように、頭の中ですり替えた
ありえない
人として有り得ない
自分は、直視することも、受け止めることもできずにいた膨大なストレスのこれ以上ない出口を見付けた
「自分は正義だ、店長はおかしい」
狂ったように喚き散らす自分を見て、同僚は一層距離を置くようになり、そんな自分の狂行はほどなくして店長の耳に入る
閉店後に事務室に呼び出され「なんか文句があるなら言ってみろ」と突き詰められると、それまでの怒りは恐怖に押しやられ、店長の顔すら見ることも出来ず、不満そうにじっと床をみつめまま、たった一言「やめます」とだけ口にした
一瞬の沈黙のあと、はじけるような店長の笑い声が店中に響きわたり、そうして店長は、一息ついた後、
「じゃあ、帰れ」
と馬鹿な犬を追い払うように手の甲を振った
悔しい気持がこみ上げてくるが、怖くてなにも言うことが出来なかった
もう忙しいから早く消えろ、普段通りの「バカは相手にしてられない」という空気を出している店長から逃げるように背を向け、
「こんな人には何を言っても時間の無駄」
「こんな人に使う自分の時間がもったいない」
と、必死に心で繰返しながら店を後にした
そうして、自分は職を失った
ただ、気分はスッキリしていた
正直自分を取り巻くあらゆるものに、限界を感じていた
これで、自分を気味悪がっていた女性たちにも、自分を散々バカにし続けた店長にも会わなくて済む
人の良い社員さんを見て、他人に対する接し方を理解した
若い社員さんを見て、女性に対しての距離の取り方もわかった
店長に気に入られていたバイトの先輩らを見て、目上の人への取り入り方もわかった
次のバイト先では、今回のことを活かしてきっとうまくできる
きっと、きっと次こそは、上手くできる
~転落『5-1』~
やべぇ…
全米は泣かんが福生あたりは48人位もらい泣くやついるんじゃね?
ってか物語がパチンコ話になった途端、おれのドキドキ感が薄れたのは何故だw
いつカニ好きの眼鏡が登場するんだよっ!?
冷蔵庫から酒が消えたので補充しにコンビニ行きます
すげえ呑んでるぞおれ
オナナン様!!
会いにいけるアイドルな数やめれw
上げてる風を装いながら、明らかにイジって遊びはじめましたね…
ぶっちゃけ、いつも通りでやりいいっすw
おかえりなさい田中さんw