二人のS vol.1 黎明期

二人のS vol.6 北海道

 

北海道から無事帰ってきたしぃ君。

その事自体は良かったものの、そもそも追い詰められた原因の一つが家庭問題でもあり、そのまま実家に帰すわけにもいきません。

とりあえず車で迎えに行き、そのまま我が家へ連れ戻しました。

「何はともあれ、無事でよかった。飲もうや。」

と居酒屋へ行ったのですが、当人は心ここにあらず。

泣くでもない、憔悴でもない、上の空の絶頂のような、何とも言えない放心感の中、静かに酒を飲みました。

その時、なんとか実家に連絡を入れさせ、本人が考えている以上に母親が心配している事も分かり、完全な断絶とはならず一安心したものです。

 

が、問題はここから。

大学を中退し、数年パチプロもどきの生活をし、挙句の果てに若くして昼から酒をかっくらうようなダメ人間が今すぐ就職など出来るはずもありません。

それでも生きていかなければならない、となった時、ボクらのセーフティネットはパチンコになるわけですが、そもそもスッカラカン。

北海道から帰ってくる資金もボクとMさんからの借金です。

彼が北海道にいた時、ボクはLINE越しに

「今まで散々お前の面倒を見てきたけど、まだウダウダ言うようならもう知らん。真っ当に生きたいなら、お金を工面してもらう恥も受け入れて帰ってこい。その二択。これがラストチャンスだ。」

と、今思うと精神を病んでる人には一番言ってはいけないような事を言い放ったわけですが、その結果、帰ってきたしぃ君にお金を無償であげる気などサラサラありませんでした。

それも含めて自分の行動に責任を負わせるべきだと考えていました。

普通の感覚であれば、日雇いバイトでもなんでもして、働いてイチから出直しとなるところです。

しかし、バイトよりはパチンコを選択した方が割がいい、というちょっとアレなボクらのダメな思考もあり、色々と今後の事を話した結果、ボクの人生で二度とないであろう「打ち子を雇う」生活が始まったのです。

俺に付いて回ってしっかり稼げ。面倒は全部見てやるから、それで借金を返し、お金を貯めて、実家がイヤなら自立できるとこまで頑張って、就職を考えろ。

そういう話になりました。

 

他方、しぃ君の北海道事件があった後、同じようなタイミングでスティーブンがパンクしました。

スティーブンは当初、静岡では女のところに転がり込んでヒモみたいな生活をしていました。

しかし、そこを追い出され、神奈川でしばらくネカフェ生活を続けていたのですが、ガタイの良さゆえ腰に爆弾を抱えていたなんて事情もあり、割高なウィークリーマンション住まいとなっていました。

賃貸アパートを借りようにも住所不定の無職。保証人になってくれる人もいない。そんな中での苦渋の選択だったわけです。

彼もしぃ君と同じくキャリアの浅い、パチプロとしては三流以下のダメプロでした。

スティーブンの場合、決してしぃ君のように昼から酒を飲むような自堕落な生活をしていたわけではありません。内容で言えば、時間2千円レベルの台を毎日のように打っていたし、計算等々甘いところがあるにせよ、少なくとも真面目に稼働はしていました。

しかし、相当な不ヅキを食らい続け、資金が枯渇。

そういったリスク管理をするのもパチプロの能力の内。パンクした時点で本来はこの世界から退場すべきです。

打ち方から何から、自力でイチから勝つ為のノウハウを蓄積していく能力に乏しかったスティーブンの場合、ある意味必然のパンクでした。

ただ、スティーブンもまた家庭環境に問題を抱え、様々な経緯でやりたくもないパチプロの道へ進んでしまった子でした。

そんな事情の中で逼迫し、行く当ても無い友人が堕ちていくのをほっとけませんでした。

そして、二人を雇う生活が始まりました。

 

ボクは基本的にワガママな人間だし、「自己責任」そのもののこの世界で、誰かの事を気にしながら打つなんて本当にイヤでした。

パチプロとしてクソほど甘ったれな二人を同時に抱えて、やりたくもない雇いをし、その結果

「回らないんですけど(^^;」

とか

「玉取れないんですけど(^^;」

とか言われる事がどれほどストレスだった事か。

 

それでも、自分に金銭的な見返りがあるならまだマシだったんでしょうが、そもそもボクが稼ぐ事が目的の雇いじゃありません。

スティーブンはパチンコオンリーだったので仕事量の7割を問答無用で現金支給。ウィークリーマンションの支払いが滞っているレベルで、即金が必要だったのでこの形。

しぃ君はパチスロも打てる子だったのとパチ・スロともに技術には申し分のない子だったので、収支を完全折半(但し立ち回りは絶対服従)。

勿論、軍資金は全部ボクのお財布です。

この条件差は二人の能力差・緊急性の違いから導き出したボクの判断だったのですが、いずれにしてもそれをやった結果

 

・自分でいい台を見つけられないからパンクする二人

・そんなんだからお金だけでなく打てる台もボクが探す

・というわけで台探しの労力が3倍増

・当然、自分の稼働時間は削られる

・仕方なく保険台を含む手持ちのコマを全放出

・その結果ボクの手駒は壊滅し

・生来のヒキ弱なスティーブンは仕事量の7割ピッタリの結果しか残さず

・メンタルが回復してきたしぃ君はボクの指示する立ち回りにちょいちょい文句を言い始める

 

という、ボクには何のメリットもないどころかマイナスしかない結果となったわけです。

中でも特に思い出深いのが、某店にてサラリーマン番長の設定6をしぃ君と二人で朝からツモった時の事。

たまたま背面同士の台だったのですが、早く回さなきゃと焦るからか、単に気を抜いてるからか、時折聞こえてくるペナルティ音。

 

(ププーッ!)

気まずそうにこっちを見るしぃ君。

 

(ププーッ!)

怒りのオーラを感じてこっちを見なくなるしぃ君。

 

「ノリなんだからもっと出して下さいよ(ニッコニコ)」

ボクの完全エスコートでツモった台にも関わらず沢山出した事をドヤるしぃ君。

 

この日以降、全台系とかを派手にやっているわけでもない穴場のお店に設定6が入る事は無くなりました。間違いなく打ち子的な小僧を連れていき二人で出してしまった弊害です。

勿論、メリットを求めてやったわけではない。でも

「四の五の言わずにやる事やれや!!!」

と死ぬほど叫びたかった苦い思い出。

プライベートで付き合う分には二人とも可愛い後輩。でも、パチンコ屋の中は年齢もキャリアも関係ない実力世界。それを分からず、自分の力も測れず弁えず。

そんな二人を雇ったこの時期は、ボクの人生の中で最大のストレスを感じ続けた日々だったように思います。

 

vol.8へ続く