○月△日

普段は午前三時くらいまでだらだら起きてるのだけども、前日の夜は珍しく早くに寝た。朝からホールに行きたかったからだ。狙いの機種は「政宗3」か「バイオ7」。新台導入初日である。

パチンコやらパチスロ系で物書きをさせていただいている手前あんまり堂々と言えた事じゃないのだけども、誰に誘われるわけでもなく、ノリ打ちでも連れ打ちでもなく。なおかつ仕事にも無関係な完全プライベートで朝から並ぶのはかなり久しぶりの事である。下手したら6号機一発目の「鏡」以来かもしれない。元来物忘れが酷いタチなので何か他にも並んでる気がするけども、いくら考えても出てこないんでホントにそれくらい久しぶりなんだと思う。

酒を控えてベッドに入った甲斐もあり、翌日の朝の目覚めはすこぶる早かった。ゆっくりと朝風呂に浸かり、普段あまり食べない朝食も摂ってから家を出る。朝からパチ屋に並ぶイコール仕事だと思ってる妻から「頑張ってね」と声を掛けられたけども、いやぁただ打ちたいから行くんだよねェとは言えず。ビジネスだから仕方ないんだぜ的な風を装って、手を振ってドアを閉めた。

目的のホールは台東区某所。普段から良く通っているホールだ。

優良店かどうかでいうと、たぶん世間的には「そうじゃない」お店だと思う。業界関連の会社がひしめく通称「ぱちんこ村」を擁する台東区一帯にありながら、プライベートで訪れるライターさんを見たことないのが何よりの証拠である。が、筆者がそこを根城にしているのはむしろそういう部分が気に入ってるからである。要するに、いついっても空いてるし、変な人に挟まれて気を使いながら入場したり打ったりしないですむから、というのが大きいのだ。リラックスして打てる。これが、筆者にとっては平均設定よりも大事な事なのである。

抽選時間の直前にお店の前に到着すると、先客は7人だけ。なんとも寂しい風景が眼前に広がっていた。

6号機とはいえある程度話題の機種の導入日。しかも競合店少なめの駅近でコレなので、なんか「アラッ」と思った。当たり前だけど、うさぎもホールも、寂しいと死んでしまうわけで。全くもって「アラッ」である。あんまり午前中に来る事がないのでいままであんまり見えてなかったけども、流石にこの状況はHPゲージが赤である。せっかく居心地のよいホールなので、これからはちょっと遊ぶ頻度を増やすようにしよう。などと思いつつ、やっぱりそのあまりにも侘しい風情に呻吟してしまう。

抽選順番が来た。バイオも政宗も複数導入。並びが自分とその後ろを含めても10人以下なので、まあ普通に考えて座れるはず。全員が新台に座るわけでもあるまいし、よっぽどくじ運が悪くてもまず大丈夫だろう。女性スタッフさんが笑顔で指し示す抽選機の赤いボタンをエイヤと押すと、出てきたピラピラには「27番」と書いてあった。

(なんでや……)

抽選を終えて屯する人々。そしてこれから抽選を受ける人々の数を目で追う。9名しかいない。改めてピラピラを見る。やっぱり27番だ。これもしかして9名のお客さんに対してケツを30番まで振ってるんだろうか。となると余裕とりすぎである。なんでこんな事になってるんだろう。根城とはいえ朝から並ばなすぎてこれが普通のことなのか何らかのミスなのかよくわからない。

ふと気づいて大通りの先に目を向ける。その先には、老舗の中規模店があった。当然ながらそっちも本日は新台導入日である。

ああ、もしかしたらそっちで抽選漏れした人が駆け込みで20人くらいくる可能性があったのか。とひとりで納得する。そしてそのアテが外れた結果、9人に対してケツが30番になったわけだ。ということは、老舗の店舗のほうもあんまり並ばれなかったと見える。ううん……。なんか久々に並んだ事で、中小ホールの客数現象のエゲつなさを、はからずも実感してしまった。

再整列。寒さに震えながら缶コーヒーで暖を取りつつ。やがて入場だ。ピラピラを渡して手指消毒。検温。それから台確保のカードを受け取って、1人ずつ自動ドアの奥に消えてゆく。バイオか。政宗か。この期に及んで筆者はまだどっちを打つか決めかねていた。

(先に目に入った方に座ろう)

どっちも同じくらい打ちたかったのでそう決めた直後、見慣れぬ赤いパネルが目に入ってきた。バイオだ。決定である。着座してサンドに万券をぶち込み、千円分のメダルを下皿に落とす。原作ファンだろうか、左側には見慣れぬカップルが座っている。右手の台はしばらく空いていたが、一般入場のお客さんがぼちぼち入り始めてからようやく埋まった。ニットキャップの耳の所から金髪のロン毛を垂らした男だ。こっちはたまにこの辺のホールで見かける人で、特にうるさかったりあぶなかったりしない。マナー良好な人である。ホッ。よかった変な人が来なくて──。

首を伸ばして眺めると、大量導入された政宗のシマは半分くらいしか埋まっていなかった。バイオはずっと少ない数だが満席。隣の芝生は青く見えるというけども、もし自分が政宗に座っていたらたぶんバイオは相当青く見えていた事だろうと思って、ちょっと安心した。よかった、こっちに座って。

しばし、見たことのない演出。効果音。システムに没頭する。

午後2時の段階で筆者の台は+1500枚程度。右隣の兄ちゃんの台は下皿にやや盛り。左側のカップルは並んで爆死していた。最初の頃は演出を見ながら一喜一憂しつつキャッキャウフフと打っておったが、次第に口数も減ってきてギスギスし始めている。カップルで新台を打つ場合、良好な状態で実戦を終えるには「両方勝つ」しかない。片方が負けても駄目。両方が負けてももちろん駄目。分が悪すぎる勝負である。新台の実戦はちょっとプレミア感があるのでスロッターカップルの遊びとしては至極のものなのだけども、それだけに辞めづらいし解析も出揃ってないんで大変に危ない。まして優良店でもない所でそれを行うのは、地雷原で手をつないでスキップするのと同じ。すぐにボーン!である。そして実際そのカップルはボーン!となってしまい、15時ごろにはプリプリ怒りながら帰っていった。まあね、こればっかりは仕方ないさ。夜ボーン!して仲直りしたまへよ、若人。

午後18時ごろ。筆者の機種はちょっとメダルを減らして+1000枚ほどになっていた。

このまま打ち続けるかどうかさんざん迷ったけども、筆者はここで、とある方から聴いた言葉を思い出して思いとどまった。その言葉とは「俺はパチスロで勝つのは500枚で良いと思ってる。だって遊びながらお金貰えるだけでも凄いじゃん」というものだ。これはもう金言である。聖書とかに載っけたほうがいいレベルですばらしい言葉だと思った。結構最近聴いたのだけども、以来筆者はこの言葉に忠実に稼働しておる。なんかもう、ガチ稼働とか利益至上とか期待値とか、そういうしがらみが全部ふっとんでパチスロといふものがめちゃ楽しくなった。

もちろんそれで生活しとる人の場合はそうもいかないし「勝ちにこだわる」というのはそれはそれで楽しいんだけども、もう筆者は年だし。なんか疲れちゃった。大前提として筆者だいたい負けるし。へへ。

そうだよね。遊びながらお金がゲッツできるなんて、凄い事だよ。ありがとう。ありがとう──。パチスロありがとう──。

というわけで閉店まで打ち切るぜェという選択肢を脳内でデリートして、筆者はこの1000枚を晩飯に変えることにした。ジェットカウンターにメダルを流しながら妻にLINEを送り、待ち合わせ場所を伝える。時間まですこしあったのでちょっとだけノーマルを打ってその分をトントンで終え、交換を済ませて先に店に入った。

「いらっしゃい! 何にします?」

最近出来たばかり。三陸のチェーン店らしい。名物は別にあるけどもちょっと筆者が苦手な食材だったので「なめろう」を注文する。あとは刺し身かなぁ。牡蠣もあるのか。フライにして貰ってもいいけど、せっかくだから浜焼きにしてもらうかなァ……。と、ひとりでぼんやりビールを飲んでいると、やがて仕事を終えた妻がやってきた。彼女の分の日本酒を注文した後「おつかれ。お仕事どうだった?」と聞かれて、筆者はちょっと考えたあと、こう言ってやったのだった。

「ああ、普段どおりの現場だったよ」

 

【今回の収支】
対戦相手・パチスロバイオハザード7レジデントイービル
投資 414枚
回収 1,052枚

対戦相手・クレアの秘宝伝 女神の夢と魔法の遺跡
投資 92枚
回収 180枚