未だに「バイオ7」にハマっている。

ホールに行けばバイオ。家に帰ってもバイオ。この「家に帰ってもバイオ」のバイオはゲームの、しかも7である。8も持ってるけども、やっぱホールでベイカー家とメシ食ったあとは家でも遊びたくなるものなので、最近は嫁が嫌がるのも聞かず夜な夜な周回しておる次第。大体ミア助けた辺りで眠くなるんだけどもね。

思い起こせば6号機を初めて打った時「これは大丈夫なのか」とちょっと不安になったりもしたのだけど、ようやっと個人的に名機じゃコレと思える作品が生まれて来た感じで実に嬉しい。こんな、冬場に冷凍庫の奥で発見したガリガリ君の如きガッチガチの規制の中でも、ちゃんと面白いものを作ってくださるメーカーの方には頭が上がらぬ。

と、例によってその日も朝からバイオ7を打っておった。

都内某所。観光地ど真ん中のお店である。その店にはバイオ7が並びで設置してあって、お店もちょっと力を入れているらしく、ちょいちょい1否定の演出が出る台をゲットできるので個人的には「バイオを打つならここ」みたいな感じで重宝している。

以前から書いてるように、筆者は混んでいるお店を好かぬ。隣に妙な人が座ったらそっちばっかり気になって台に集中出来なくなるからだ。また、最近は音量の問題もある。隣で爆音でもって遊技されると単純に五月蝿いし、とはいえ音量の大小は基本的には人の勝手であるゆえ「下げてください」とお願いするわけにもいかん。以前は音量なんぞちっとも気にならなくなったけど、最近はとみに爆音が不快に感じるようになったので、それもまた、人が少なくて遊びやすいホールを好むようになった理由のひとつである。単純に老化とも言うけども。

そんな筆者が居着くようなので、件のお店も基本的には快適な環境である。毎日顔を合わせる常連がいる程度で、いちげんのお客はほぼナシ。コロナ禍の前は観光客が打ってたりしたのだけども、それもこの所ない。全体の稼働はピークで4~5割ほど。特定日の土日で7割いけば「今日はお祭りだなぁ」と思っちゃう。そんな、腐ってはいないけど決して賑わってはない、ちょうど良いお店だ。

さあ、夕方から仕事に取り掛かるから、それまでの間に出して帰るか!

リセット確認後、サンドに万券をブチ込んで遊技を開始する。非有理区間でチャンス役を引くとモード移行が優遇されるんでそれを狙って朝イチにカニる人もいそうだが、このお店にはそこまでガツガツした人はいない。筆者もである。当たり前に遊技を開始して黙々と打ち続ける。

しばらくはそうして平和に遊んでたけど、お昼過ぎから徐々に稼働が上がってきて、いよいよ筆者が独占していたバイオのシマにもニューカマーが現れた。ちらりと横目で確認する。モスグリーンのピチTを着たキノコカットの男である。まだ大学生くらいだろうか。若さが眩しかった。ややあって、そのキノコカットの男の隣に女子が着座した。何ていうか知らんが、袖のところがビラビラしたワンピースみたいなのを着た、これまた若い女である。

(ああ、これは観光客だな)

と筆者が即断したのは、男がパチスロに全く慣れて居おらず、そして女が遊戯せずに男のプレーをずっと見てたからだ。つまり、観光地でのデートの、ちょっと空いた時間に「旅の余興で」パチ屋に入ってみました、みたいな感じなのだろう。観光地のホールあるあるだ。微笑ましいことである。

キノコ頭は全くの初心者というわけでもないらしく、袖の所がビラビラした彼女になんやかんやレクチャーしながらたどたどしく打っておった。手首をいちいちクイクイして打つのは多少カンに触ったが、まあ、スロッターは誰しも最初はそんな感じだし全然構わない。袖ビラの女も「へぇ!」とか言いながら笑顔で話を聞いてるし、これはもう邪魔にならんように打つしかねぇなぁガンバレよワカモンと思いつつアレしてたのだけど。

キュピンッ!! キュォォォ! ズゥゥン! モールデッアターック……!

モールデッ! デンデデデンデデデレレレドゥゥン! キュピピピ! クイックモールデッ! デンデデデンデデドゥゥン……キューン! グレネェード! ドゥゥゥン! ドドドドド! クイックモールデッ……グレネェード! ドブフゥォン……!

(うるせぇ……!)

そうだ。初心者だから音量を下げるという概念がないのだ。これは別に仕方の無い事だしキノコもビラも「うわあ!」とか言って喜んでるのでファンを増やすという意味では万々歳なのだけども、隣で打ってる筆者としては困ったもんである。でもまあ、構わない。ガンバレ、ガンバレ。若人よ……!

その後も音量マックスのまま、キノコヘッドとビラ袖はキャッキャウフフと楽しそうに打っておったのだが、いよいよそっちの台が「ベイカーズディナー」に突入した。原作でもお馴染みの、ベイカー家のすげー嫌な夕食シーンをモチーフにした前兆ステージである。

ファッファッファッファッファッファッファッ!
イーサァァン……食べたてるか……?
イーサァァン……温かいうちにお食べ……ッ!
イーサァァン……温かいうちにお食べ……ッ!
おいおいイーサン……!
イーサァァン……温かいうちにお食べ……ッ!
ファッファッファッファッファッファッファッ!
おいおいイーサン……!
イーサァァン……温かいうちにお食べ……ッ!

(何かい温かいうちにお食べいうねん……!)

これはちょっとヤバかった。マーガレットが「温かいうちにお食べッ」って10回くらい言ってた。普段はスンスン飛ばして遊ぶので細かい所があんまり気にならないしなんならそもそも文字の色しか見てないんだけども、キノコは初心者ゆえ全てをじっくり鑑賞しながらプレーしておる。ゆえに「温かいうちにお食べ……!」が気になって仕方なかった。しかも爆音である。

タッチダウンだァイーサァン!

あ、緑色出た。てかこれ前兆長くね? ゆっくり消化してるから長く感じるだけか。ああ、連続演出行ったわ。マーガレット……いや、ちょっとまった、赤いぜ。タイトル! あら。これ……。

「おお!」
「え、これ当たったの? 当たったの?」
「うん! 当たった!」
「イエーイ!」

(当てやがった……!)

楽しそうにハイタッチするキノコとビラ袖。オーケー。おめでとうだぜ。

さて、バイオを打ったこと無い人に説明すると、通常時に連続演出に勝利すると「クライマックスバトル」という名の自力突破型バトルに突入する。これは二段階になっていて、一段回目が「パニックバトル」。そしてニ段階目が「クライマックス7」。やることはそんなに変わらんが、とりあえずマックスヴォリュームだと両方激しく五月蝿い。特に強烈なのが「クライマックス7」のほうで、毎ゲームフリーズ煽りが入った上で突破の際は「ンポウ……ッ!」という音とともに画面が暗転。キュォォーと言いながらボタンが振ってきて押したらベベベベベみたいな音がする。この「ンポウ」は煽りを伴っている分、隣で打ってるとこっちも身構えるし、なんなら島全体が身構える「くるか?」スポットになっておる。多分閑散とした小型ホールの場合はそのフロアのスロッター全員が身構える。

自分の台に集中しつつも、どうしても隣のに意識が持っていかれながら様子を見てると、よく分からんながらもキノコ&ビラは一段回目の「パニックバトル」を通過。

モウゼッタイニユルサナイ……! デレッデレッデレッ……。

「クライマックス7」スタートだ。キノコがレバーオンすると、心理的に来る感じの微妙な時間だけリールロックが発生し、グゥゥゥゥゥみたいな煽り音がする。このグゥゥゥが切れたタイミングでンポウンッつって画面が暗転すると大当たりだ。

シックス……グゥゥゥゥゥゥ………。
ファイブ……グゥゥゥゥゥゥ………。
フォー………グゥゥゥゥゥゥ………。

「え、これどうなるの? どうなるの?」
「分かんない。ちょっと調べてみる」

スマホをいじりだすキノコ。

(はよ消化してくれ……!)

筆者だけではない。フロアの全員が思った。心臓に悪いんである。とっととこの「ポウンするのかどうか」という不安定な状態から抜けたい。ややあってようやくレバーをオンするキノコ頭。

スリー………グゥゥゥゥゥゥ……。

真剣な顔のキノコ。そしてビラ袖もキノコの太ももあたりに手を置いてさすさすとさすりながら「ドキドキするね!」みたいな事を言っとる。キノコは手首をクイクイさせながらカッコつけて停止ボタンを押したあと、左手でじっくり貯めてレバオンする。

トゥー………グゥゥゥゥゥゥ…………ンポウ……ッ!

ああンポウした! キノコがンポウした! 大音量に驚いたビラ袖がスツールに座った状態からケツだけぴょんと浮かす。当たった! 当てやがった! 音が聞こえる範囲のお客が一体になった瞬間である。

キュォォォーーッ! キュォォォーーッ!

激しいサイレンの音とともにボタンがくるくる回りながら振ってきて、手首をクイクイ言わせたキノコがそのプッシュボタンをペチンと叩くと、七色に発光したイルミで描かれたエヴリンの断末魔のシーンが画面いっぱいに広がる。

「やった! 当たった!」
「すごいね! 派手だね!」

イエーイとハイタッチする二人。微笑ましい。筆者にもこんな時代が過去、たしかにあった。人はこうやって成長していって、そうしてパチスロを取り巻く大きな流れの小さなパーツになって、文化を形成していく。そう。彼は俺だし、俺は彼だ。おめでとう。キノコ頭。そしてビラ袖。ゆっくりと、そしてじっくりと楽しんで、そしてパチスロの事をもっともっと好きになってくれ! とか思いつつ、筆者の頭の中はこれから来るであろう上乗せ特化ゾーンと、そしてシティメタル感のあるボーカル付きの曲をバックに銃声がひたすら流れ続けるATでいっぱいになった。

(よく考えたらこれからもっとうるせぇよ……!)

以前から筆者はこの台のAT中のBGMに出てくる「Fire,Wild,Fire」の発音が良すぎて「パヤッパヤッパヤッ」に聴こえるというのを回りに言いふらしておるのだけども、言えば言うほどそうとしか聴こえなくなり、いつしかタイトルも「パヤパヤ」であると勝手に決めてそう呼んでおる。

んで隣から流れるそのパヤパヤを20分くらい聴いたのち、600枚と少しでAT終了。試合を続行するかなぁと思ったら、二人はそのまま帰ってしまった。キノコカップル大勝利である。やったな!

と20分ほどして、筆者はお腹が痛くなって便所に行くことにした。

とりあえず個室に入って用を足しておると、となりのトイレから「シュルシュルシュルシュル」と音が聴こえる。トイレットペーパーを引き出す音である。別段気にせず出すものを出す筆者。その間にも「シュルシュルシュル」という音は定期的に聞こえてくる。いよいよ排便が終わり、筆者もトイペを使う。その間にも向こうからはずっと「シュルシュルシュル」という音がしていた。

(……いつまで尻拭いとんねん)

素朴なツッコミである。恐らく向こうの部屋の主は筆者が入る前からケツを拭いていたし、筆者の排便が終わりケツを拭き終えるまで、ずっと拭いていた。向こうが遅いのか筆者が早いのかは知らんが、水を流すタイミングは全くといって良いほど同じで、そして個室の扉を開けるタイミングは同じであった。

「あ……」
「あ……」

キノコ頭であった。なんとなく会釈して先に洗面所に向かいしっかりと手を洗う。遅れてやってきた男が隣で手を洗い始める。鏡越しに、なんとなく目があった。そして筆者は驚いた。ついさっきまで「バイオ7を音量マックスで打ってたキノコ頭」だと思ってたけど、この数分でそれらは頭の中からすっかり消え、ただ「ケツを拭くのが異様に長い男」という印象になっていた。

筆者はケツを拭く時間は人並みだけと手を洗う時間はやや長い。が、隣の男は筆者が洗い終えたあと、なんか知らんが指先に水をつけて髪の毛のさきをくりくりとし始めた。よく見るとバッグから出したらしい整髪料が洗面台の上に広げられている。そしてそれをもってして、何も変わらんのだけど、執拗にくりくりしている。「パチ屋の鏡で髪型を整える男」というのに金輪際出会ったことがなかったのでこれもまた衝撃だった。そうして、便所を出る頃には「バイオ7を音量マックスで打ってたキノコ頭」は「ケツを拭くのが異様に長いのに髪型は気にする男」になり、そして先にトイレを出たあと、脇のところでスマホを見ながら立ったまま彼氏を待っているビラ袖を発見するにつけ、最終的にはこう落ち着いた。

──休憩室が無い店で彼女を一人で待たせてめっちゃケツ拭いて髪整えるヤツ。