※今回パチンコに全く関係ないので、そういうのを読みたく無い方はスルーしてね。

具体的な話は伏せるが、ちょっとリアル家族の一員が現在進行系でモンの凄い不味い事になっており、7月はその対応でアワアワする可能性が出てきた。これ実は去年末くらいからこうなるのが分かってた事で、色んな人に相談もしてたんだけども、まー予想よりも遥かに酷い状況になってて何もいえねぇ感じ。せめて流れ弾にあたらんよう、上手いこと立ち回ろうと思います。と、これだけだとナンノコッチャ分からんのでキーワードだけ出しとくと「熟年離婚」がそれ。ただし内容が昼ドラ並みにドロドロしてる感じ。でも本人はあっけらかんとしたもんで、むしろ周りばっかりが心配したり怒ったりしてる状況なり。

んでそういう状況においていっぱい考えた末(今後どうなるにせよ)俺が出した結論というのは「勝手にしなさいな」という事であり、まあ血が繋がったファミリーで、さらに同性であるとはいえ、価値観というは人それぞれぜんぜん違って面白いもんだなぁと思った次第。笑い話になるまで(なるのか?)詳しく書けねぇのがもどかしいが、恐らく状況のクソさでいうと100点満点中1500点くらいあるし実際に大問題化するのが恐らく来月の中旬くらいと個人的に予測しているため、いまのうちにどっかに避難しとこうかなとすら思っておる。下手したら刃傷沙汰すら起きる可能性も、絶対ないとは言い切れない。というかその可能性はまあまああるんじゃねぇかと思ってる。そして俺にはそれを止める事ができない。マジで、なにも起きませんように、だ。

さてそんな中で、先日ちょっとした別の事件があった。

浅草で嫁さんとひとしきり飲んだあと、そこそこフラフラの状態でアーケードを歩いてる時、30代前半くらいの男が道端でうずくまってるのを見かけた。うずくまってるというか正座して俯いてるような状態で、なんとも尋常じゃない。まあヤバいなら救急車なりを呼ぶつもりで「大丈夫?」と声をかけたところ、彼はスッと立ち上がり、俺の目を真っ直ぐみながら、震える声でこういった。

「あの、わたし、パニック障害をもってて、全然動けなくてェ……」

一瞬「コログかよ」と思ったんだけどまあそれはおいといて「んじゃそっちの暗いところのほうが落ち着くだろうからそっちいこうぜ」と半笑いで誘導。しかしコログは動かない。意地でも人通りの多いアーケードから動かない。ああそうですかと去ろうとする筆者を引き止めたのは嫁のはるちゃんだった。
※編集注記:コログ=ゲーム「ゼルダの伝説シリーズ」に登場する架空の種族。動けないときに「もう疲れちゃって、全然動けなくてェ…」と言い、その言い回しがネットミームになっている。

「えー、そうなんですか。大変ですねぇ。救急車呼びましょうか?」
「いやぁ……救急車はちょっと……」
「お家どこ? この辺?」
「北千住です……」
「お家の人は? 誰か迎えに来てもらう?」
「一人暮らしです……」
「じゃあ、一人で帰れる? 大丈夫?」
「無理です……」
「すぐそこ、つくばエクスプレスの駅だからね。そこまで連れていきましょうか?」
「電車はちょっと……パニック障害なんで……タクシーがいいです」
「じゃあタクシー乗り場までいきましょうか?」
「お金ないんです……」
「じゃあそこに交番あるからいこう? 交通費貸してくれるよ?」
「無理です……警察無理です……」

はるちゃんとコログのやり取りをチベットスナギツネみたいな顔で見守る俺。こんなもん寸借詐欺以外のなんでもねぇのだが、はるちゃんは性善説を信じてる女なので「あら大変」と言わんばかりに「いいよいいよ、タクシー代あげるからね」と、衝撃の一言を展開。どう止めようかちょっと考えたんだけども、コログの目は完全にイカれたやつのそれであり、怒らせると何するかちょっとわかんねーなという疑念が湧いた次第。一人の時だったらいいけど嫁さんがいる時のトラブルは勘弁してほしいし、一回出すといった以上もう引くのは無理なので、流れに身を任せる事にした。普通、ある程度鈍くても途中で寸借詐欺であることに気づくし、面白がって金だけ渡してサヨナラというのが基本のフローなんだけど、はるちゃんは酔っ払ってる上に超いい子なのでその辺気づかず。なんとマジでタクシー乗り場まで「あっちだよ。いくよ」と誘導を開始する。予想外の行動になかなかついていこうとしないコログ。ばかめ。うちのはるちゃんのいい子っぷりを食らうがいい。絶対この場では金渡さねぇからな、という意味を込め、俺もコログの後ろに張り付いて歩を促す。

「とっとと行こう。あっちだよタクシー」
「いや、パニック障害で歩けなくて……」
「……お互いヒマじゃないんだから早く行こうよ」

はるちゃん。コログ、そして俺。3人で列になってタクシー乗り場まで向かう。はるちゃんはこの期に及んでも「車道側はうるさいからね。ちょっと下がって横断歩道待とうね。パニック大丈夫? ノーパニック?」などと懸命に気遣っている。コログは面倒臭くなったのかスタスタと我々よりも先行して歩き、さっきまでの震える声の演技もすっかりヤメていた。間の良い事にちょうど空きのタクシーが来たんでコログを後部座席にブチ込み、ケツのポケットから三千円だして運転手にわたす。

「運転手さん。この人北千住まで連れてって」
「かしこまりました」

コログは結局「ありがとう」もいわず、面倒くさそうな顔で前を向いたまま、タクシーで運ばれていった。どうせすぐ降りるんだろうけど、初乗り料金分の損である。どうせなら運ちゃんに「お釣りは運ちゃんにあげるから渡さないで」「北千住以外で降りようとしても降ろさないで」って言っとけばよかったんだけど、そう気が付いたのはタクシーが出発したあとだった。タクシーを見送ったあと、思わず鼻で大きく息をした。

「ちょっと、はるちゃん。あれ寸借詐欺だよ。もう」
「え! そうなの! 言ってよ! あと出し禁止!」
「速攻でお金あげるって言っちゃったからさはるちゃん。途中でダメって言ったら暴れるかも知れないじゃん。危ないよ……」
「へぇ……居るんだねあんなひと」
「ね。俺もちょっとびっくりしたさ。でもさ、何か聞いたことあるよね今の人」
「……あるっけ?」
「ほら、まえさ、飲み屋で……」

浅草の飲み屋の常連にプロの三味線プレイヤーのひとがいて、彼が昔「若林」という名前の寸借詐欺師の話をしてたことがある。内容は忘れたけど、要するに「帰る金が無いからくれ」という話であって、おおまかなプロットは今回のコログと一緒だった。唯一違うのが、三味線プレイヤーの彼は「寸借詐欺であること」を知った上で楽しんで色々イジって最終的にお金を渡しており、その分を「ネタ」として色んな人に話して十分に元をとってた事だ。はるちゃんの場合は「寸借詐欺であることに気づかず」「ほんとうの善意で」お金を渡しており、しかも直後にこういう話をした。

「あー、あったね。若林……。なんか覚えてる」
「ね。あれと一緒だよねいまのコログ」
「でもさ、私はいまのひと、本当に困ってたと思うな」
「……え?」
「だって分からないじゃん。本人がどれだけ苦しいとか、パニックだとか。だから、わたしは良いことをしたと思ってるし、三千円で徳を積んだと思ってるの」
「お……おお……マジか。うちの嫁さん女神かよ……」

お金を渡してネタを買った三味線プレイヤー。徳を買ったはるちゃん。両者の対応は最終的には一緒だけど、スタンスは大きく違う。つまり、何かあったとき、どう受け止めてどう処理するかはそれぞれの人次第であり、何か嫌なことやキツイ事があったとき、それを受け止める本人がどう捉えるかは各々で全く違う。そう考えると、コログに対してももうちょっと色々遊べる隙間はあったろうし、違う対応も出来た。余裕がなかったのは俺の方で、登場人物のなかで一番未熟であるのは間違いない。

「はぁ~。なるほどなぁ。勉強になるぜ」

と、翻って冒頭の話。これは状況的に結構酷くてこっちも病むんだけども、俺はコログのおかげでちょっと考え方を改めた。マジで笑えねぇケースだけども、それならそれで何か学びや、あるいは得るものがあるはず。めちゃめちゃ面倒くさいし正直あんまり関わりたくない話なんだけども、どうせ家族だし関わらなくちゃイカンのだから、せいぜい楽しむなり、徳を積むなりして、プラスに変えていこうね。