前回#5-B
ノッポさんの軍団は、僕と店側とのそのようなやり取りを横目で見ながら、事はそれほど難しいことではないのかもしれない、となかば侮りながらバイトの子や店長たちに近寄っていった
しかし、ノッポさんは最初に僕に接していたときのような、あきらかに違和感を感じさせる行き過ぎた平身低頭、そして音声認識機が正確に「ハハハハハ」と認識するような空々しい愛想笑いは、何人かいたノッポさんの実力に感嘆していたバイトの子らをも、凍りつかせてしまった
ノッポさんはゲームの達人(個人的には天才の域であると思っている)であったが、対人にたいしてあまりにも…だった
ノッポさんの指示により、他の団員も、頑張って店長や店員に接触を図ったが、ヒデくんは陽気な人柄を持って近づくも、ところどころ、客としての上から目線が滲み出ていた
白田くんは持ち前の人の良さそうな雰囲気で責めるも、ノッポさんの場の凍りつくような愛想笑いや、ヒデくんの上から目線のフレンドリーシップのあとでは、その仲間である彼がいくらやわらかい空気を出しても、やはり相手の構えた気持が解かれることはなかった
そして、何よりの理由は、ノッポさん以外の人間はやれと言われたからやっているだけで、そこまで店側に媚を売る必要性を感じていなかった
どこか人間不信風の白田くんは、おどおどと恐れを抱きながら、嫌々接触しているようにみえた
店側の甘さを愉快そうに嘲笑するヒデくんの性質からすれば、愛想笑いを浮かべて接触を試みるなんてことは不快以外の何でもなかったであろう
次第に白田くんは言い訳できる程度の挨拶に終始し、ヒデくんにいたっては、指示などなかったかのように本来の高圧的な態度に戻っていった
そう、彼らにしてみれば、ノッポさんの実力と自分達の行動力があれば十分に事足りる、他のものは一切不要(僕の存在も含め)と感じていたのだから上手くいくはずもなかった
あるとき、アンジェラスではスロットの設定変更イベントが毎日、定時に行われていた
内容は大当たりの早がけなのだが、事前にフラグ(次ゲームで大当たりを揃えられる状況)の用意や、十分以上前の台の確保は禁止されていた
僕は定刻に台を確保でき、そして、出来る限り客や店員に邪魔にならないような場所を探した
ライバルが客や店員を気にせず強気にくれば、間違いなく競り勝てない位置であったが、ありがたいことにそれほど競合者は多くなかった
しかし、ヒデくんとその後輩は、既にそのコーナーに着席、そして談笑していた
バイトの少年が注意をしにそのコーナーに入ると、意識的に一度目を合わせ、これならいいんだろと言わんばかりに、挑発的にコインを一枚投入し空回しをはじめる
注意の理由を失し、困り顔で去っていくバイトの子をニヤニヤとしながら見送り、また談笑するのである
当然、後日禁止になったが、似たようなことは繰返され、軍団に対する店側の印象は地の底まで落ちていた
ノッポさんからすれば、自分の前では忠節を貫き、まさか、目の届かぬところではそのようにしていたとは夢にも思っていなかった
伝えようかとも考えたが、結束が強い分、間違ったら矛先がこちらに向くだろうし、ノッポさんには悪いが伝えるメリットが何一つ見当たらなかった
「おかしい、なぜ、ぼくらが嫌われるんだ、そんな筈はないのに」
ノッポさんは僕の前でそう言い、あたまを抱えた
ノッポさんは以前にも増して、あの異様な平身低頭、凍りつくような愛想笑いを続けたが、相手の心の紐が解かれることはなかった