早いもので、もう師走。この季節になると約20年前、1999年の暮れに通ったホールのことを思い出します。ターミナル駅にあるものの、競合店より駅からの距離は遠く、特に台上のカウンタすらなかったパチスロは閑散としていたところでした。

 

11月初めのこと。フラっと覗いてみたら、パチスロコーナーは相変わらず寂しい状況。『クランキーコンドル』と『タコスロ』が残っていたので「7枚交換だったっけ。ま、お賽銭」そんな軽い気持ちで触ることに。しかし、流してみると等価交換になっているじゃないですか! なんで、こんな人がいないの?

いずれも設定1の出玉率が100%を軽く超える激アマ機種。等価交換店のホールが増えるにしたがって、アマすぎると撤去が進んでいた名機たちです。等価で残しているところも、客寄せとしての存在で2部入れ替え制にしていたり。もちろん、設定1での運用です。

 

この2機種ならば、等価で打てるだけで御の字と通い始めました。打ってみると明らかに全台設定1ではなさそうなのよん。台上カウンタもなかったので、常駐しなければわからなかったことでしょう。自分の台のゲーム数を数えるだけでなく、周囲の台のボーナス状況もチェック。歩くデータロボ状態でしたとも(笑)。

7枚交換の時の設定をほぼ保っていたのかな? 当時にしては設置台数の多い店舗でしたが、どのシマも勝負できる設定状況にしていたのは確か。数名がアマいと張り付くようになり、それが見せ台となってアピール。11月の終わりには、夕方になると稼働率が50%を超すようになっていきました。

 

12月に入ると“クリスマスケーキの補助券”なる抽選が始まります。

当たりくじ3枚で、12月24日にケーキをプレゼントするというものでした。ケーキが好きかは別として、抽選は大好きな人種の集まりです。自然と「兄ちゃん、当たったか?」なんて会話が出てくるほど浸透していきました。頭の中でゲーム数をカウントしているので、いきなり話しかけられて困りましたとも(笑)。

こうして迎えた12月24日当日。タダで配るケーキの代金は、回収されるに違いない。斜に構えていた私は、ケーキの引き換え時間に合わせて夕方に入店することに。入ってビックリ。全台がお祭り騒ぎになっているじゃあ〜りませんか。なんてこったい!

さすがにテッペンではないとしても、全台高設定かという雰囲気。顔なじみになった店員さんに「今日はなにごと?」と聞いても「ケーキの引き換え日ですよ」としか答えてくれません。250台近くはあったかと思いますが、空き台は1台しかありませんでした。優秀なスペックだったCT機『ワードオブライツ』だったのが幸い。そこから2000枚ほど出てくれましたとも。嬉しかったけど、なんか逃したようで悲しかったりも。

 

当時は、今よりもユーザーの多くが“盆・暮れは出ない”と認識していたように感じます。その既成概念をぶっ壊したんですね。「このホールだけは違う」そう思わせる最高のデモンストレーションでした。

そのホールのその後ですが……。1月の下旬にはパチスロコーナーを増設。徐々に『タコスロ』や『コンドル』がハズされ、“普通の等価交換店”になったので、私の足は遠のきました。しかし、周囲の競合店を閉店に追い込み、20年経った今でもそのターミナル駅では屈指の繁盛店となっています。

 

○大切なのは、通常営業への期待

現在は、交換率も下げる方向になっています。時代も変わってタダでケーキなどをプレゼントすることはできなくなりました。ま、そういった小手先のことは置いておきましょう。

パチスロ増設を決めたところからの先を見据えたビジョン。とりわけ、ユーザー心理を中心に据えた施作が秀逸だったのです。12月というのも効果的。他のホールが出さなくなる時期にぶつける手法は、今もっともグランドオープンが多い季節として浸透しています。

 

このホールの1999年12月。通っていたユーザーは、こう思っていたことでしょう。“自分だけが知っている優良店”と。外見は、いたって普通の通常営業を続けていました。ケーキを配る12月24日にしてもそう。特定の日に集客し、そこでも“通常営業と言い張って”特に出玉を見せつけたのです。

ユーザーからすると、自分だけ知っている優良店って気になるんですよ。上級者層は、いつまでこの状況が続いてくれるか。少し見ないと不安になります。台上カウンタもないので、見ていないと狙い台を作れません(笑)。

また、ガッチリ通えない中級者層にとっても悪くなかったことでしょう。ほかのホールより出玉は良いですし、フラっと来る程度のプロとは互角の台選びをできました。定住する気のないプロにだけ厳し……くはないか。等価でコンドルやタコスロを打てたんだから。

 

そこからの20年。ホール業界はこの逆をやってしまったように感じます。煽ることによって、ハードルを無駄に上げ続けてきました。煽った日に“そこまでではない”と思われてしまったら、通常営業の稼働が上がるわけがありません。煽る日だけ頑張ったとしても、その日にしか稼働は上がりません(笑)。

広告規制などで、やれることも少なくなってきていますが、どの施作にせよ“いかに普段から遊べると思わせるか”。ここにしか、稼働を上げる正解はなかったと思っています。全国各地にあるホールがしっかりできていれば、遊技人口がここまで減ることはなかったんですけどね。