こういった統一テーマの原稿を書くに当たって、天邪鬼なボクがまず最初に頭に浮かべるのは「背筋が凍る」というテーマを如何に文章内に盛り込まずに書き上げるか、と言う事だった。これは、物書きの駆け出し時代に「同じ語句を同一文の中で繰り返し使ってはいけない」のが鉄則として叩きこまれた事も影響している。

 それをタイトルと本文に結び付けて、「上手い事書いてやろう」とこねくり回してしまうのがボクの悪い癖。

 そして、パチ・スロサイトである以上、テーマコラムはパチ・スロと絡めた話をすべきという縛りがある。それは当然と思いつつ、パチ屋に暴力がはびこっていた時代の片鱗程度しか知らない世代としては、何とも困るお題だ。

 さて、どうするか。

 一つだけあった。

 パチ屋で途方に暮れた話から、まずは始めたい。

 時は6~7年前に遡る。当時、プライベートでやっていたブログで出来た仲間に「リニュオあるよ?」と誘われ、彼らと飲みに行く口実にと神奈川から埼玉へ車を走らせた。良い内容の台を打ち切り、「さぁ!飲みに行こう!」と外へ出たら、ボクの車のフロントガラスが木っ端微塵に割られていた。そして、車中に置いてあったカバンが盗まれていた。

 こんな表現が正しいかどうかはともかく、パチ屋での車上荒らしなど決して珍しい話ではない。ただその時、何よりもショックだったのは、ガラスが割られた事よりも、カバンが盗まれた事よりも、ボクが初めて安田さんとお会いした“勝者に学べ”のギャラを収めた茶封筒が、盗まれたカバンの中に入っていた事だった。

 時刻は閉店後の23時。せっかくこれから楽しい飲み会に、というタイミングでアクシデントが起こり、一緒に打っていた仲間には大変な迷惑をかけた。それも辛い事だった。

 ただ。

 ショックではあるけれど、その一事をもって生き死にを左右するような話では決してない。それもまた、ここでこうして書けているという意味で、ネタとして役に立っている。カバンを外から見える位置に置いてしまった事、大切な物を車中に放置してしまった事を、反省として自分の糧にしていけばいい。

 イチ打ち手として、パチ屋で起こる出来事というのは、99%が自分の力で何とかなる。そこに、それほどの理不尽さは感じない。

 では、ボクが本当の意味で恐怖を覚える事とはなんだろうか。それを考えた時に思い浮かんだのが、先の参院選でN国党が議席を獲得してしまった事だった。

 悠遊道をご覧の皆様ならご存じかと思うが、N国党の党首である立花氏は、元パチプロだ。そこは、同類として物言える立場ではない。問題は、彼のパチプロ道が“軍団の親玉”だった事だ。

 エクセルジャパンやMMのような全国規模ではなかったにせよ、確実に言える事として、軍団の親になろうという連中は須らくモラルやマナーという概念が欠如している。そして、他者からお金を搾取する事に何ら良心の呵責が無い。自分の利益を最大化する事が第一義。それは紛れもない事実だ。

 建前上は、仕事が出来ない人のため、パチンコで食べていきたいけれど出来ない人の為、と言うが、組織立って上納金を吸い上げる彼らのやり方に、真の意味で弱者の救済など微塵もない。文字通り建前であり、そこにあるのはただの貧困ビジネスだ。

 

 参院選の前後では、れいわ新撰組とN国党が話題になった。れいわ新選組の山本氏は左派。立花氏はワンイシュー。ポピュリズムと言う点は同じかもしれないが、少なくとも山本氏は自分が議席を失うリスクを背負い、実際に議席を失った。そこには自己犠牲を伴ってでも成し遂げたい信条がある。

 他方、立花氏は当選後、自らを国会議員Youtuberと位置づけ「マツコ・デラックスと絡めば話題になる!」と踏んでは、NHKの事など関係なく、恥も外聞もなく話題作りと広告料稼ぎに奔走している。過去の話だが、彼が軍団の親をしていた際、打ち子に出玉を持ち逃げされ、裁判沙汰にした事からも、彼の人間性はうかがい知れる。「有権者をバカにするのは許さない」と言う建前を突撃理由にした背後には、「弱者の救済」を語る軍団の親の姿がダブって見える。

 山本氏と立花氏。同じポピュリズムであっても、これらの行動を見て、人としての根本に大きな違いを感じないとしたらどうかしている。

 パチンコ打ちの世界を知るボクからすれば、立花氏は最も国会議員になってはいけない・権力を持たせてはいけないタイプの人間に映るのだが、そんな人物が議員バッヂをつけてしまった。そこからの丸山議員の入党、渡辺議員との会派結成など、見るに堪えない汚濁にしか映らない。そして、彼は案の定パチンコ業界にも触手を伸ばそうとしている。

 “金になる”と踏んだからだ。

 この一連の流れこそが、ここ10数年で最も恐怖を感じた話だ。

 ――私利私欲がベースにある人間が、ただ“戦略がオモシロイ”というだけで当選してしまう

 NHKの在り方とは全く別の視点として、これほど恐さを覚えた事は無い。なぜならこういった世の流れや、国政という自分の力が及ばない世界の変化で、自分に直結する日々の生活が変わっていくからだ。業界人の方々には申し訳ないけれど、おだち議員の落選よりも、立花氏の当選の方が、ボクにとってはよほどビッグ(バッド)ニュースだった。

 

 日々生きている中で、抗いようのない恐怖や暴力と相まみえるシーンなどそれほど多くない。現代日本は、不慮のアクシデントを除いて、そういった人間の悪意を避けようと思えば避けて生きていける社会だ。パチンコ業界だって、グレーな一面を残しつつも、多くの先人たちの努力ですこぶる健全になったと思う。

 さりとて、権力にはそれら積み上げてきた物事を簡単にひっくり返す“ナニカ”がある。そういう“ナニカ”を感じた時に、ボクは何よりも背筋が凍る。

 おだち議員の落選もあり、パチンコ業界に歩み寄ろうとしている立花氏の持つ力は、業界にとって救いの手に映るかもしれない。ただ、徒花を咲かせたところで心あるユーザーも業界人も離れていく。

 業界が政治と関わりを持ち、権力を行使する事自体に反対する気は無い。一方で、風俗産業であるパチンコ業界には、他業種よりも大きな企業としての社会的責任(CSR)がある。政治への介入は、その第一義が業界の利益追求の為でなく、CSRでなければならない。それを軍団の親が出来てしまう人物に果たせるとは到底思えない。

 さて、これからのパチンコ業界はどんな道を歩むのか。立花氏と手を組むような、恐怖のシナリオではない事をボクは切に願っている。

 

P.S 09/09 23:54

 ゾロ目デーの本日、のほほんとパチンコに興じていたところ、立花氏が17時に緊急記者会見を行うとの一報をYahooニュースで知る。

 弊コラムを最初に書いたのは8月末。そこからアレやコレやと日々状況が変わっていく中で追記を繰り返してきたが、この会見の内容によっては大幅な書き直しが必要かと戦々恐々としていた。恐れていたシナリオは「立花氏が目的のある辞任を表明し、かつ議席を繰り上げ当選枠に渡す」という事。

 現状よりも高い目標があるならば、こういった戦略があるかもしれない――

 結果は杞憂だった。

N国党の立花代表が脅迫容疑の容疑者に「警察に頭に来ている」と反論会見【全文】 プロレスラーも乱入〈週刊朝日〉

 あえて言いたい。案の定だ、と。

 NHKの在り方に文句がある人にとって、「ぶっ壊す」というフレーズは甘美に聞こえるかもしれない。けれど、それを本当に託せる人物なのかどうか。もはや言わずもがなだ。

 立花氏の素性をよく知らずにN国党に投票した有権者には猛省を促したい。軍団の親である事は知らずとも、Youtubeにも残るNHKの政見放送を見れば、その異常さを感じ取れないはずはないからだ。

 そしてボクは、パチンコ打ちとして、その世界から見た彼の素性を伝えるこのコラムを参院選の前後に寄稿できなかった事を猛省している。


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