ここで当時の開店屋さんの仕組みを、ざっと説明させてください
いまのようなネット環境はなく、基本的には新聞チラシによって情報を得ていた時代
一度行ったことのある店ならば会員証をつくり、DMを送ってくれるマメな店もあったが、その一度行くことも大変で、新たな店を知るためには足を棒のようにして歩きまわるか、タウンページでパチンコ屋っぽい名前の住所を、地図から割り出して探し当てるような気の遠くなるものだった
郊外の住宅街のど真ん中にある店などは、パチ生活をはじめてから十年近く経つまで存在すら知らない店も山ほどあった
そうした中、開店屋さんのシステムは、一駅一駅おりて、駅前店の会員証を片っ端から作っていく
そして、未開の地であるA市の駅前店からDMが届くと、その開店で、A市が地元のパチンコ打ちを見つける
そして、そのパチンコ打ちを入会させる
新たに入会したA市の彼は、家に届く新聞チラシからA市全域にわたる開店情報を、ヤクザの事務所が権利を持つ固定電話に情報を吹き込む
その電話は、暗証番号を打ち込むことによって、会の他の人間が入れた情報を聞ける仕組みになっている
そうして、A市、B市、C市の情報を仕入れて、会にいないD市の駅前店から入替のDMが届くと、こんどは、そのD市の駅前の店でスカウトして、D市全域の情報を~と範囲を広げていくのである
あきる野に繋がる橋の先にあるその店の新規はかなり甘いものだった
パンダのようなシルエットのオーナーらしき人が、
「2000万もの赤字を出して回収できんのか!!!」
と、コンサルタントっぽい人間相手に怒鳴り散らしているのを横目に見ながら、駐車場に建てられたプレハブ型の定食屋さんに、白谷さんとポチは入ってゆく
「ポチよー、ここはお前の地元だから言い訳はできるが、ここ以外の開店にも顔出すなら知らねーぞ。もう何人かは、お前の顔を覚えてんだからな。俺らのところは見逃してやれるが、ほかの会から守るなんてできねーぞ。わかってんのか」
「うっす!」
「うっすじゃねーだろ…。悪いことは言わねーから俺の会に入っとけ。お前の面倒ぐらい全部俺が見てやっから」
「ん~…」
「あのな、入りたくても入れねーやつだっていんだぞ。はあ…まあいい。この店が終わるまで考えておけよ」
「うっす!!!」
「おま…」
「はーい、おまちどーさん!」
呆れた白谷さんは、チラッと横目で、能天気な顔をしているポチを確認すると、軽いため息をつきながら、手元に置かれた遅めの昼食に手をつけはじめた
白谷さんのチームは、白谷さん以外のメンバーも皆優しく、もし、ポチのようなものが入っても、きっと居心地の良いものだった
範囲を広げるごとに徐々に大きくなっていく開店屋さんのシステム
誰をスカウトするかは基本リーダーの一人の権限であったため、バランスよくというチームは少なく、どうしてもリーダーの嗜好によって同じような人種が集まってしまう
そのため、チームごとの特色は、かなり色濃くわかれていた
結果、ここらをメインに回る3、4のグループの一つには、メンバー全員が、すべてのトラブルを暴力で解決を図ろうとするような狂気の武闘派のグループも存在した
だから、ポチの身を心配した白谷さんは、自分のチームへと誘ってくれたのだ
会費は白谷さんのところだと5千円
得られる情報の量を考えれば格安も格安
ただ、どこかのタイミングでケツ持ちの人間との面識ができるのを避けて通ることはできない
といっても、基本的にはチームの頭がやり取りをするために、末端の人間は、稀に顔を合せたときに、挨拶と頭を上げ下げするくらいで、話をする機会はない
はぐらかしていたのは、白谷さんとじゃれあいを続けたかっただけで、ポチはもう入会する気持ちなっていた
ただ、橋向こうの店は予想以上に長持ちしてしまった