駅から遠い立地のため、駅に白谷さんを迎えにいっては、ガリガリのぽちの運転する80ccのバイクのうしろに巨漢である白谷さんを乗せ、バイクのスプリングを沈み切らせたまま、強引に店へ向って走らせはじめる
進みはするものの、ちょっとした段差があるたびに、泥除けとタイヤがぶつかってセルフブレーキがかかる
そのたびにバランスを崩し、
「危なっ、危ないって言ってんだろう、お、おいバカ、いったん止まれ、あぶねーって言ってんだろ!!」
「大丈夫っすよ、う、うおっ、し、白谷さん暴れないでください、落ち着いてください、まじで危ないですって!!」
と二人して大騒ぎしながら橋向こうの店に通った
終わる気配のみえない、その店での楽しい時間のなかで、ポチと白谷さんは仲良くなり過ぎてしまった
この開店が終わろうとも、白谷さんとの縁は続いてゆくであろうことに気付いてしまった
やはり暴力団の方と面識ができるのを恐れていたし、たかだか五千円を払うことにも抵抗を感じはじめていた
それまで考えてもいなかったが、もし入った場合に、ジグマであるアビコ兄さんや、安田さんなどの身内の反応を想像するようになっていった
その店が終わり次第、白谷さんのチームの一員になるとの暗黙の了解のもと、ポチは、白谷さんの会のメンバーにも、他の会の方々にも、白谷さんのチームの新人として可愛がってもらっていた
それらは、あくまで白谷さんの人望、そして会に入るという前提条件のもとにあったのにもかかわらず、あまりにも順調に構築されていく人間関係は、もしかしたら、このまま入会せんでもいけるんじゃねーか、との卑しい考えをポチの中に芽生えさせてしまった
猶予期間中に大きい開店があれば、そこにも瞬間的に参加させてもらい、また橋向こうの店に戻る
そうして、のらりくらりと情報だけ教えて貰って、会には属さずという、ぽちに都合の良い環境になっていった
武闘派のチームや、『羽島さん』(後に出てきます)の所のようなイケてる兄さんらのチームがある中、白谷さんのチームは、子供時分に「ハカセ」とあだ名がついていたような、バランスは決して良くないが、長所と短所がはっきりとしている電脳系スペシャリストな人が多かった
ちょっとイントネーションが特殊な人や、一風変わったリアクションを取る人など、いろんな方がいたが、共通しているのは、白谷さんのチームは、一人も欠くことなく全てのひとが優しかったこと
内情をすべて知っているチームの人は、怒りこそすれ、やさしくする理由などかけらもなかったが、いつでも笑いながら話しかけてくれた
たとえ、白谷さんのいない開店であっても、食事に誘ってもらったり、遊びに連れて行ってくれたりと、本当に良くしてもらった
そのような居心地のよい環境に、ぽちは勘違いを加速させてゆく
橋向こうの店の話題が誰からも出なくなった頃には、まわりの会の人たちは、ポチがとっくに白谷さんの会に入ったものと思っていた
そのような誤解をされているのを分っていながらも、核心に迫るような話題のときは、曖昧な言葉に終始し、そのたびに白谷さんは慌ててフォローにまわっていた