今回は私が地元大分でサラリーマン(営業職)をやっていた頃の話です。

当時の私は休日に朝から晩までパチンコ店に入り浸る、いわゆる落ちこぼれ営業マンでした。そもそも、引き篭もりでコミ障の気がある私を営業部に配属した会社の意図はなんだったのか、今でも全く意味不明で理解できなかったりするんですけどね。まぁ、朝礼時には全社員で社是を唱和し、時おり朝礼を見にくる会長に「お前は腹の底から声が出とらん!」と指摘されると、会長が納得するまで何度も社是を独唱させられる軍隊みたいな社風でしたから、もしかすると敢えて性格的に不向きな部署に配属して人間的な成長を促したのかも知れませんけど、そんなスパルタ的な指導をバネに一流の会社員に育つ人材はほんの一握りに過ぎません。実際、グループ内の別会社で現場作業員をやれとの出向辞令を受けた元業務課長(仕入れ担当)がいたり、入社から経理一筋に歩んできたベテラン社員をいきなり営業職に移動したりするトンデモ会社でしたから、慣れない仕事に困惑して退職する社員は後を断たず、社員の定着率が非常に低い会社として地元では有名でした。

 

でまぁ、そんなことはどうでもよろしい。休日に駅前のホールで「麻雀物語」を打っているときに事件は起きたんです。そのお店のデジパチはラッキーナンバー制で、麻雀物語の場合は白・撥・中いずれかの大当りで終日無制限(出玉がなくなるまで)、それ以外の絵柄の大当りは全て一回交換というルールでした。回転率は保留玉連チャン込みでボーダーギリギリだけど、なにしろ無制限を引いた時の恩恵が半端なく大きいので、長時間勝負が可能な休日にのみ朝から勝負してたんですよ。

その日は早々と無制限を引き、昼過ぎに出玉を一度飲まれましたが、ドル箱の八分目くらいの出玉を消費した時点で現金投資に切り替え(出玉を飲まれたら無制限札を取られる)、どうにかこうにか戦えていました。2.5円交換で持ち玉があるのに買い足しするのは抵抗感もありますが、無制限札の恩恵を考慮すると、飲まれても続行するなら、飲まれる前に買い足した方が良いに決まってます。この裏技については店側も黙認していたので、特に咎められることはありませんでした。

そして、ようやく二度目の大当りを引いて持ち玉ができたとき、隣の台を打っていたお兄さん(と言っても私と同じくらいの年頃でしたが)が交換ナンバーの大当りを引いたんです。…が、途端に慌てたように私に話しかけてきましてね。「すいません、少しだけ玉を…」と言われたので彼の上皿を見たところ、全く玉がありません。なるほど、これでヤメるつもりで保留を消化していたら、たまたま大当りしちゃったってわけね。

まぁ、困ったときはお互い様ですし、玉切れで困っている人に出玉を少し貸すことも何度か経験してましたんで、どうぞと言って一掴みの玉を彼の上皿に入れました(たぶん20個~25個くらい)。こういう場合、大抵の人は大当りの消化後すぐにお礼を言って返してくれるか、返してくれるのみならずコーヒーをくれたりするんですよ。個人的にそこまでする必要はないと思いますが、好意で買ってくれた缶コーヒーを遠慮するのもどうかと思いますし、そんな場合はありがたく頂戴してました。

ところが、そのお兄さんは大当りを消化して保留玉連チャンがないのを見届けると、ドル箱に出玉を全て落としてジェットカウンターへと向かいました。今なら出玉を流す際には店員さんを呼ぶのが普通ですが、当時はドル箱を運ぶのも出玉を流すのもセルフサービスでした。てゆーか、さっき私が上皿に入れてあげた玉を返してから流しに行きなさいよ…と。そう思ったんですけどね。そのままお兄さんは戻ってきませんでした。なんだよ、玉を借りパクして即ヤメかい!

よくよく考えたら、あのお兄さんは「少しだけ玉を…」と言いかけただけで、「貸してください」とは言わなかったっけ。つまり、後に続く言葉は「ください」だったんだなと。なるほど、相手の言葉を最後まで聞かず、善意に解釈して一握りの玉を渡した自分に非があったみたいです。いや、こんなことを気にする私は人間の器が小さいんでしょうけど、あまり気分の良いエピソードじゃないことは否定できません。

 

 

後日談…というか、今回のオチ。

こういう経験をした私は、「相手の話を最後まで聞く」という、普通に考えたらごく当たり前のスキルを獲得しました。その結果、営業マンとしての成績が上昇したのは少し皮肉な話です。