先日の話、よく行く料理屋のマスターに「ひろしくんお酒のみ行かない?」と誘われた。どうやらパチンコで勝ったので奢ってくれるらしい。

そういう誘いは一も二もなく乗るタイプなので嫁と二人で出かけ、さんざん飲み食いして二軒目へ。そこでたまたま知り合ったお客さんと意気投合しドラクエ4のようにパーティメンバーを増やしつつ三軒目に向かったのがオカマバーだった。

「あら、いらっしゃい!」

大盛況の店内。誰かが謳うカラオケとオカマの人々の嬌声が響く中、通されたボックス席。筆者が座る場所の横にはカウンター席があり、カップルが鎮座し楽しそうに呑んでいた。ちなみにこの時点で嫁さんは離脱。パーティメンバーがひとり減って一時的に戦力が弱体化した刹那、ボックスにふたりオカマの方がついたので差し引きでひとりメンツが増えた格好になった。とりあえずこういう場所ではチャゲアスの「SAY YES」を謳えば100パー盛り上がるのを知ってる筆者はそのルーチンをこなし、あとは芋の水割りを死ぬほど飲む。飲む。飲む。と、カウンターに座った例のカップルの様子が気になった。

線の細い男と、その倍くらい幅がある女性。

いや、これ場所が場所だけに男性と男性の可能性がある。女性と女性の可能性すらある。もはやジェンダーレスの時代なので別に外見上の性別がどっちかなぞ大した問題ではないのだけど、筆者、そういうのが気になると他になんも手がつかなくなるという性癖があって、どうしてもはっきりさせたくなった。ちょうど彼氏さん?のほうがオカマの方に声をかけ、なにやら曲を入れてる。どうやらカラオケを謳うらしい。しばしのち、流れたイントロはサザンオールスターズの「君にだけに夢をもう一度」だった。

(こっちは男だな……)

まず、男性に見えるほうはしっかり男性だった。こっちはオーケー。スッキリした。次。女性とおぼしき方。こっちはどうなんだ。折しも彼氏さんに続き、彼女(だと思う)もまたオカマの方になにやら指示して曲を入れる。流れたのはZONEの「シークレットベース」だ。おー、そうかこっちは女性か。普通のカップルじゃないか。とどうでも良いことでスッキリするのはまだ早い。声を聞いて判断しよう。「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない」でもおなじみの例の曲だ。この曲はサビから曲がスタートする。どうだ?

「君と夏のおわヴェッホンヴェッホンヴェァ」

いきなりむせる女。声で女であることはわかったがマイクを口につけたまま思っきりむせるので不愉快な音が店内に響く。んでそのタイミングでガン見して気づいたけど、その女は思いっきり足を広げており、筆者の角度からパンツが丸見えであった。女はイントロでギブし直ぐにマイクを置き、となりの彼氏らしき人にデレデレと甘え始める。あー、これホストだわ彼氏じゃなくて。どっかのアフターだなあ。

「ひろしくん、サザン好きだよね。ひろしくんも歌ってよ」
「オッケーですオッケーです。桑田のソロでいいですか?」

一緒に来たマスターからリクエストされた筆者は桑田の「月」を朗々と歌い上げる。遠く、遠く、海へと続くゥ、忍ぶゥ、川のォ、ほとりをォ歩きィ~。と、気持ちよくなってるところで何か視界の隅に異様な気配を感じた、マイクを口もとに寄せたまま横目でみると、さっきの女が「わたしこの曲すきぃ」といいながら変な踊りを踊っており、あまつさえ壁に手ェついてケツをこっちに向けてクイクイやりはじめた。もちろんパンツ丸見えである。今度は筆者がむせる番だった。まさかこんなしんみりしたバラードで南米の女みたいなケツ振りダンスをお見舞いされるとは思ってなかったので笑いが止まらなくなってしまう。上手いことごまかしながら何とか歌い続ける筆者。と、そのタイミングでケツふってたデブがカウンターの酒を盛大にこぼす。オカマさんたちが慌てておしぼりをもって駆け寄る。なぜか不貞腐れた態度の女。靴下までびっしょりィ。と不満を述べる。それを見たオカマの人が手をポンとたたき「大丈夫よ!」と告げる。

どうするのかみてると、酒まみれの女の靴下は一回絞られたのち、天井でクルクル回るプロペラ型のサーキュレーターの先っちょにコンドーム式にハメられていた。これで早く乾くよ、ということらしい。くるくると回る靴下。遠心力でひとつ外れて、通路に落ちる。直ぐ側の別のお客さんが「うわぁ」と避けた。

ついに本格的に爆笑してしまい、筆者は最後まで曲を歌い上げる事ができなかった。最高の夜だった。