学生時代、入社前の面接の時、面接官にこう尋ねたことがありました。「訪問販売とかはありませんか?」。で、返答は「ありません」。しかし違いました。
入社して2か月くらい経った頃、当時の各売り場の主任連中が怪しげな研修会に強制参加させられて行きました。S家電の訪問販売専門チーム、名付けてア〇ム隊の隊員から、2泊3日で訪問販売の訓練を受ける研修会です。後日の昼食時、耳に入ってきました。その研修会の最初の講義でこう言われたとか。
「蟻になれ」。
そう、これぞ洗脳教育です。人間を捨てれば恥も外聞も捨てれる、ということ。研修会を終えて帰ってきた、全体朝礼時前に立った主任連中。目の色が違っていました。
それぞれ異口同音に「ガント目標100万絶対達成します!」そう、今後始まるS家電の総力販売において社員ノルマ45万に対し上積みした個人目標宣言です。
さあ、当時の玩具売り場主任(私の上司)は、世の中にこんな人間がいるのかというほどの自分に甘く他人に厳しい完璧主義者。それからの部門朝礼時は掛け合いコールが必須。
「キョウツケ!」「休め!」「キョウツケ!」「構え!」「ヨシ!」「売って売って売りまくれ!」「やらねばならぬ、訪問販売!」・・・「声が小さい!」はい、3か月続きました。毎朝、前日の結果報告(何件回った、何件電話したなど)が必須となりました。
この雰囲気、嫌で嫌で仕方ありませんでした。親戚に買ってもらいました。しかし何より自分で買いました。電気カーペット、ラジカセ、テレビ、クリーナー、電子レンジ。3か月で45万ノルマなんとか達成させました。そう、半分以上自腹で。
このS家電の総力販売は極端な例ですが、毎年ありました。春と秋に宝飾フェア。はい、ノルマは社員1人12万。大阪から出張してきた宝飾メーカー担当者のアタッシュケースには、12万ラインのネックレスや指輪が並んでいました。しかしその宝石の小さなサイズやネックレスの細さはどこぞの専門店の1万円均一のソレと同レベルかそれ以下でした。
はい、バックルームの通路にグループ別の棒グラフが張り出されました。これ、個人目標を達成しただけではダメ。主任となって以降はグループリーダーとしてクループ全体のノルマ達成が必須。達成したら選挙の当選みたく赤い花びらが付けられました。はい、途中経過で進捗が悪ければ商談室に呼び出され、次長から怒鳴られる、のも普通。事務所の隣が商談室でしたが、総力販売期間は中から怒鳴り声が聞こえくるのが日常茶飯事でした。
こんな田舎で誰が宝飾など必要としてるのか、と思ってました。はい、母親にプレゼントしました。結婚指輪にあてました。婚約指輪にあてました。家内にプレゼントしました。妹にプレゼントしました。年2回のノルマは全て自腹で達成させました。そう、17年間ずっと。
そして年2回、スーツのイージーオーダーキャンペーンがありました。ノルマは1人4万。つまり高級なスーツを年2回購入しました。これらについて、パチンコでの副収入にどれだけ助けられたことか分かりません。逆にそれが無ければと思うとゾッとします。
他にも、お中元、お歳暮のノルマ。さらにはクリスマスケーキは1人12個のノルマがあり、ケーキについては自分の家用に小ぶりなのを2個に加えシュトーレンも加えるなど毎年完全達成させました。そう、17年間ずっと。
この会社に勤めて分かったことがありました。店長など出世する人ってたいてい若い時やんちゃしてたようなのが多い。新入社員時同期の者に暴力も平気とか。そしてその訳は、少々の事に動じないことと、ノルマ達成のため部下に威圧できる事を優先させてる、であろうこと。まあ、ゆえに女性問題やらかした店長も後を絶ちませんでしたが。
はい、このノルマ販売が嫌で辞めた社員やパートさんも少なからずいました。確か私が入社して3年目くらいの年、年間で社員1/3くらいが朝礼時、皆の前で今日で辞めます挨拶をしていました。会社側からは、ただ売れと言ってるだけで誰も買えとは言ってないと毎度強気な言葉。しかしその実給料を減らしてる従業員。パートさんが辞めるのも当たり前と言えば当たり前。ある意味この会社が成長した源は従業員の給料からもむしり取ってきたから、に他ありません。
そう、まだブラックという言葉の無い時代。今はもうそんな悪しき風習はない、と聞きますが、まあ当たり前でしょうね。
また、ある日突然こんなこともありました。従業員が車停めてる駐車場は本来会社所有の土地である。よって今後は有料とする(社員月〇千円、パート月〇千円)、ただしお客様優先ゆえ駐車は今まで通り店舗から1番遠い位置。これ、組合は何してるのか事案でしょう。さらに、繁忙期は駐車禁止ルール(自分で停める場所を探し、挙句車にキズ付けられてたことあり)もあり、個人的に、もう新人ではない時の話ゆえかなり憤慨したものでした。
取引先から万一お饅頭もらっても、全て事務所に出すというルールもありました。それを1個食した女性社員、始末書書かされてました。自分からはいくら奢っても良い、しかしコーヒー1杯すら絶対に奢ってもらってはいけない、ルールです。
永年勤続で表彰受け、同時に支給される景品は全て取引先から貰った物が基本でした。大手スーパーから転入してきた方がこう言ってました。「計画的残業時の食事代も自腹とか、こんなケチな会社初めて」。
普段の仕事がめっちゃ忙しい、だけでは済まない今回のお話。だんだん、辞意を考える要素が増えつつある、のを感じられるかと思います。はい、その時に近づいているのは間違いありません。